「ナツコ 沖縄密貿易の女王」

奥野 修司∥著 文芸春秋

 沖縄では新聞で大きく取り上げられる等、かなり話題になった本。2005年 第27回 講談社ノンフィクション賞受賞。

 沖縄は太平洋戦争の際、日本で唯一、地上戦のあった場所だ。人もたくさん死んだし、何もかも焼きつくされ、文字通り、何もなかった。コーラのビンを切ってコップにしたり、空き缶を鍋にして使っていた、というのはよく聞く話。

 そんな状況から、短期間で奇跡的に復興を遂げることができたのは、「密貿易」をしていた人々(漁師が多かった)の力が大きかったようだ。
 「何もなかった」沖縄本島からは、米軍施設から盗んだり、拾われたりした、タバコや軍服、薬莢などが運び出された。バーター(物々交換)で、例えば与那国島からは、米や鰹節が、台湾からは砂糖や米などの食料品や、ペニシリンなどの医薬品(どれも沖縄では著しく不足していたものばかり)が運び込まれた。

 彼らは、沖縄本島、八重山、与那国、日本本土、台湾、韓国、などを縦横無尽に行き来していたようだが、中でも「夏子」は一番のやり手で、当時を知る人々の間では有名人だったらしい。30代の小柄な女性であったにも関わらず、男たちをあごで使い、情報通で先を読み、大儲けをした。立派な船も持っていた。

 、にも関わらず、彼女に関する文献はまったくなく、奥野さんもかなり苦労したようだ。「夏子」に関しては、どこでいつ産まれたのかもはっきりしない。戸籍さえもあてにならない。たくさんの人に聞き取り調査をした内容がこの本のベースになっているが、当時のことを知る人も少なくなり、執筆中にも何名かの方が亡くなられている。
 そういった意味では、本書の意義はとても大きい。「夏子」は、その影響力にも関わらず、この本がなければ、もうすぐすっかり忘れ去られ、歴史から消えてしまうはずの人だったのである。